思うことと反対のことを考えてみる習慣をつける

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長年気がつかなかった自分の思考の癖を自覚した。それは症状を好転させる貴重な第一歩だった。

次のステップ。思考の癖が不安障害を悪化させていくのを防ぐにはどうするか。好転させていくにはどうするか。

なにしろ癖になってしまっているので、ほぼ自動的と言っていいほどの速さで否定・悲観に向かう思考。自動思考と呼ばれるもの。これをどうするか。否定的思考も不安も生じないようにするというのは困難であり現実的でもない。

自動思考が生じても、それが思考の癖だと自覚できれば、不安の波に飲み込まれそうになったとき(あるいは、自分で沈みこもうとするとき、と言ったほうがいいかもしれない)も、

あっ、まただ いけない

と、立ち止まることができる。そこからだ。

そこから、どこへ向かえばいいのか。思考をどこに向ければいいのか。

クリニカルサイコロジストのジャネットさんも、以前記事で紹介した Andrews et al. (2000) の社会不安障害者治療マニュアル も、思考を新たな別の観点から観察して行き先を反対方向に設定してみるということを言っている。

『運転するのが怖い』の記事で書いた現実的な考え方に導いていくプロセス。

咄嗟に浮かぶ不安に閉じこもらず、あえて正反対のことを考えてみる。

絶対にみんな私を変な人だと思っている、と咄嗟に感じたら。

→ 「誰も私のことを変だなんて思っていない。誰も私のことを憶えてすらいない」

今回もプレゼンは失敗に終わる、と咄嗟に感じたら。

→ 「プレゼンは失敗しない。不安がおさまれば再開できる」

社会不安障害で一生廃人となる、と咄嗟に感じたら。

→ 「廃人にはならない。人生は長く転機は訪れるものだ」

と、あえて 反対の考えを設定する。

これをやっていて、あれ? これは知ってるぞ。

対立概念の設定とちょっと似ている。

いろんな分野で使われてる、対立概念。

人は主観的なものでどうしても偏った考えにとらわれてしまいがちだ。

そこで先人たちは、偏った考えから放たれ真理を追究するための有用な手法を確立した。

Aだと思ったら、Aじゃないと言ってみる。あえて言ってみる。

超簡単だ。

簡単なのに、間違いや偏見に陥らずに、明晰に思考を進めていくのには有効だ。

たとえば、統計学では “帰無仮説” と呼ばれる対立概念を設定する手法がある。

「数学のできには男女差が ある」と誰かが思ったとする。

そしたら「数学のできには男女差が ない」とあえて仮定してみる。

男女差が ある という前提の上で論証を進めてしまうと、あるような方向に間違って結論付けられてしまう恐れがある。人間の思考は偏るものだから。

「男女差が ない 」  ← この帰無仮説のほうを統計的に立証していく。

結果、立証できた(できてしまった)場合、その人が最初に思ったことは間違っていたことになります。

立証できなかった場合、その人が最初に思ったことはほぼ正しかったということになります。

そういうふうに、反対側から考え検証していく。

それは何事をも明晰に偏りなく考えていくための基本でもある。

17世紀のフランス。ルネ・デカルトは『方法序説 』を書いた。

明晰に思考する方法についての科学哲学書でもある。この本で “方法” と言っているのは、このあえて反対から考えていくことを手段として使うことを指す。

著者のルネ君は、

「目の前に見える物は本当にある」

そんな当然すぎるような仮説にあえて対立概念を立てる。

「目の前に見える物は本当はない」

ついにはルネ君はこの対立概念を支えるべく想像力逞しくも、「もしかしたら小悪魔みたいなのが飛び回っていて、私を惑わすべく魔法をかけてるという可能性」についてすら考えていく。

それが方法的懐疑論の “方法” と呼ばれる所以だった。あえて疑ってみる。

人は主観に陥りやすいので、考え方の偏りから脱すべく、方法 として、あえて反対のことを考えてみる。

ルネ君ったらタダ者ではない。

私たち社会不安障害を患う人達もかなり想像力は逞しいので(一生廃人となってしまうなんて思うのは想像力の成す技だし)、もしかしたらルネ君級かもしれない。

偏った考えから抜け出すには、こういうふうにしてあえて反対のことを考えてみる。そのあとは、その反対の仮説の根拠を考えてみる。考え尽くしてみる。

咄嗟に浮かぶ仮説: プレゼンは今回も失敗する。

反対の仮説: プレゼンは失敗しない。

その根拠は?

  • 不安発作は短時間でおさまるものだから復活して成功させることができる。
  • 不安をコントロールする訓練を受けた。不安はコントロールできる。
  • 呼吸法を身に付けた。だから心臓ががくがく鳴ったり体が震えたりはしないはず。
  • 何年も続けてきた研究。準備は万全。なにも不安になる理由がない。
  • みんないい人たちだ。多少の緊張や不安発作で私のことを低く評価したりしない。
  • ついでにみんなかなりメンタルである。

 

これだけたくさん根拠が上がった。もっと続けられるけど、このくらいで十分でしょう。

最初の私の仮説は覆された。

故に対立概念が正しい。

プレゼンは失敗しない。

 


Andrews, G., Creamer, M., Crino, R., Hunt, C., Lampe, L., & Page, A. (2002). The treatment of anxiety disorders: Clinician guides and patient manuals. Cambridge University Press.

投稿者: administrator

Mental health blogger, researcher, social anxiety/selective mutism survivor.