3回目のセラピーは不安が起こりパニックに陥るときの認知 (felt sense) を重点的に検証した。
ジャネットさんが尋ねる。
「よーく思い出してみてください。壇上に上がり、パニックに陥るまでに、頭の中にはどんな考えが浮かんでますか。どんなことを感じていますか」
「いやあ、考える暇もなく、どっかーんと不安になるのです。あとは頭の中は真っ白です」
「では、目を閉じてみてください」
私は目を閉じた。ジャネットさんは続ける。
「ゆっくり思い出してみてください。あの日、パニック発作に襲われたときのこと。壇上に上がりましたね。たくさんの人があなたを見ています。あなたは話し始めます。ところが不安が芽生えます。そしてどんな感情が起こりますか。そのときは言葉にもなっていなかったかもしれません。その感情の変化を細かく言葉に換えてみてください」
「うーん。不安が起こって、それがすごく強まって、で、自分の体が言うことを聞かなくなる。それでさらに焦って、うわーっという感じになって、ああ、また始まった、もうダメだ、今回も失敗だ、大失敗だ、もうどうにもならない、一生、このパニックが治らないんだ」
ぱんっとジャネットさんが手をたたく音で、私は目を開ける。
「どうして自分に対してそんな意地悪なことを思ってしまうの」
言葉とは裏腹にジャネットさんは目を輝かせてかなりうれしそうだ。なんだろう。これは。
ほら、キツネやタヌキのしっぽを捕まえて、ついに化けの皮を剥がしてやったわよって感じの。
どうやら、私は今まで化けていたことすら知らなかったなんらかの愚かな小動物だったらしい。という気すらしてくる。
「ねえ、実はこんなにたくさんの否定的なことを考えていたのよ。自分に対して意地悪言ってたのよ。ねえ、お友達が緊張していたら何て言ってあげる?」
「大丈夫。気にしすぎだよ~。きっとうまくいくから、安心して、と」
「そうでしょう。自分に対してだと途端に意地悪を言う。こんなに自分をいじめておいて自分で気がつかない。友達には優しくできるのに自分はいじめる。なんて不公平なの」
そうか。私はいじめっ子だったのか。なんて悪い奴だ、私という奴は。
自分の敵は自分。
社会不安障害。少しだけ、わかってきた。
これは自分との闘いなんだ。