SNSを利用した自助グループ的認知行動療法:#認知再評価

今回、自助グループ的なSNS風の認知行動療法(CBT)プラットフォームを開発し、TIME誌Sciencedaily でも鬱や不安障害のための新たなセラピーモードの可能性を示したと紹介されたモリスさんは、少し変わった経歴を持つ。

元々、心理学専攻であったが、新たなセラピーのありかたを情報工学が提供できるはずだと考える。そんなポテンシャルは、従来の心理学の枠組みでは探求不可能だった。そこでマサチューセッツ工科大学の博士課程に進学。今回、話題となっているプラットフォームの制作に繋がった。

CBTプラットフォームは他にも開発されていたが、モリスさんのプラットフォームはCBTの中でも認知再評価に重点を置き、単に起こった出来事と自分の感情を表現するのみで認知再評価を施し合わない群との比較において鬱症状の軽快に有意に効果があることを示した。また、これはいわゆる思考記録の練習であり、自己と向き合う孤独な作業のため思考記録の習慣をつけられず、3日坊主で終わる患者が多かったのだが、人々が互いに認知評価を施し合うというエンゲージメント度の高いプラットフォームが提供されたため、人々は楽しく毎日互いに認知再評価を施し合うという結果となった。

心理学専攻だったものだからプログラミングは一から学んだ。不具合が生じたりして、分からないので、質問サイトへ行き質問すると、プログラマー達がコードの修復方法を考え、助けてくれた。そのとき閃いたんだ。コードのバグを特定し修復するのを見知らぬプログラマーたちが助けてくれたように、思考のバグの修復も人々の集団に手伝ってもらってもいいじゃないか!

ここまで Sciencedaily より要約

思考のバグの修復。自助グループ的。SNS的プラットフォームの活用。

すごい。画期的だ。セラピストいらずだ。タダだ!

とひとり浮かれてツイートを流していたら、複数の方々が、それやってみたいね!と反応してくれて、すると、そうだね、これは Twitter でもできそうだよね...という話になった。

モリスさんの研究で行われたのに近い認知再評価を施し合うには、ある程度その方法を人々が共有しておく必要がある。今回のブログ記事はそのために書いたものである。


1.投稿者は自分の状況(起こった出来事、今の状況等)とそれについての感情を書き、最後に #認知再評価 のハッシュタグを入れ普通にツイートする

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投稿する人は人間なら誰でもいい。グループというわけではなく、誰でも何の自己紹介などなしにハッシュタグを入れてツイートすることで参加できる。鬱や不安障害等がない人でも、なんとなく興味がある人でもいい。様々な感情が生じるのは自然なことで、認知再評価の習慣は誰にでも役立つはずだ。

 

2015/11/16 追記

そもそも出来事と感情・自動思考がくっついてつらいから、認知療法をやろうとしているのに、出来事を書いて、感情を書いて...なんて分かりづらいではないか!と反省したので追記。

出来事の描写を試みると、たぶん、感情と一緒になって出てくるのが普通だろう。例えば、

明日のプレゼンが怖い。

これを、まず【感情・自動思考】に入れてしまってもいいかもしれない。そこから、【出来事・状況】を抽出する。この場合、【出来事・状況】は、

明日、プレゼンをする。

となる。感情の伴わない客観的な状況描写をシンプルに入れる。最初に感情と一緒に出てきた描写「明日のプレゼンが怖い」から感情、ジャッジする姿勢等を抜く。「怖い」をとればいい。すると、「明日、プレゼンをする」という感情抜きのシンプルな出来事・状況描写が出来上がる。

出来事・状況と感情を、このように取りあえず分けてみるのは、ものすごく重要だと個人的には思っている。

今日のプレゼンで震えてしまった。

と思ったとする。この思考から感情的意味づけを抜く。「~しまった」というのは否定的なジャッジを施す表現だから、これを抜き取る。

【出来事】今日のプレゼンで震えた。

【感情・自動思考】震えてはいけないのに、堂々としていなければいけないのに、また震えてしまった。常に私は震えて失敗するんだ。

のように、「~しまった」という語尾を置いた自分の「震えること」に対する否定的価値観が浮かび上がる。その結果、【感情・自動思考】も効率的に具体的に記述できる。

出来事と混ざらない純粋な【感情・自動思考】が目に見える形で抽出できれば、その後の<認知の歪みの特定>と<適応思考>の提示が容易となる。

単純にコントラストを描こうとするだけで、「震えてはいけないなんて誰が決めたんだよ」とか「多少震えているくらいのほうが懸命にやっている感じが出ていいんじゃね」等の自動思考とは別の考えが自然に出てくる。

特定の行動に対する自分の否定的思考パターンが見えてきて、思考パターンと向き合う準備ができる。

だから、認知再評価で出来事と感情を切り離すプロセスを経ることはかなり大切だと思う。出来事と感情を切り離す練習ができなければ、いつまでたっても「震えること」は悪いことであり、その結果として「震え続ける」こととなり病気が維持される。

出来事と感情を切り離して記述することを繰り返せば、浮かび上がる感情や信念(例えば<震えてはいけない>)に対して反論を加えるスペースが生まれ、「そもそも震えることってそんなに悪いことか?」と自問し続けるようになる。

さらにうまくいくと、そのうち「震えていいじゃん」が根付き(もちろんそれが根付くためには認知への働きかけのみではなく行動を要する)、なんと震えなくなって大変図々しい様子でプレゼンを実施するようになる。

 

2.#認知再評価 で検索するなどしてツイートを見つけた人が返信し認知再評価を施す

モリスさんの実験においては、この段階で返信内容は三種類に分けられる:

(1) 共感を示す

(2) 認知の歪みを特定する

(3) 適応思考を提示する

 

(1)共感を示す

セラピストが傾聴し共感を示す段階に相当する。

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最も簡単なので慣れていない人はまず【共感】から始めてもいいかもしれない。

 

(2)認知の歪みを特定する

認知の歪みの特定には自分の持っているセルフヘルプ本等の資料や下記の表から選ぶ。複数見つかることもある。

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認知の歪みは英語から訳したもので、本などにより微妙に異なるので、表現は分かれば何でもよいと思う。

個人的にはごっつい表現の「認知の歪み」より「ユガミン」が可愛らしくて好きなので、私はユガミンちゃんの中から、今日はどの子がいるのかな...と選ぶ。

 

(ユガミン画像初出:竹田伸也 著 『認知療法トレーニング・ブック』)

 

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いや、別にいいです。認知の歪みでもいいです。でも知っていてください。認知が歪んだのはあなたのせいではありません。

 

3.適応思考を提示する

最後に別の考え方を提示する。今後この状況に適応して合理的に生活していくためのポジティブな思考はないか。

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認知再評価の返信をするのもやはり誰でもよいでしょう。鬱や不安障害の人でも、認知行動療法を勉強中の人でも、通りすがりの人でも、専門家でも、時間があるなら共感を示したり、認知の歪みを特定したり、適応思考を提示してみたりすることは、誰がやっても心のスキルを高めるので、まさにモリスさんの言う相互助け合いが成立する。

モリスさんの研究は、実験参加者が自ら状況や自動思考をポストして認知再評価の返信を受けたり、別の機会では他の参加者に認知再評価を施すことでさらに気分を向上させスキルを身につけることができたことを示している。

したがって、最初にツイートを流した人が返信者に礼を言う必要もない。なぜなら、最初にツイートを流すという行為は、人々に認知再評価スキルを向上させるためのありがたいネタを投入し、相互に助け合うことで参加者全員が恩恵を受けるわけだから、義理も恩もなく気楽にやれる。

ひとりで認知再評価の(1)~(3)全てを出してもいいし、ひとつでもいいし、既にたくさん出ているところに、同じようなことを返信してもいい。何年も前の #認知再評価 ツイートに返信してもいい。つまり、この認知再評価SNS活動は、ひとりひとりのスキル向上のためにやるのだから、自分のために使えばいい。

 

このような活動の実践から効果的かつ洗練され、しかもコスパのよい(無料だ)、非常にオープンな形の自助グループ的活動に発展していく可能性もあり、とてもワクワクしています。#認知再評価 を見たら、参加できないときでもリツィートしてもらえると皆さんが助かります。

モリスさんの実験ではポスティングは24時間監視され不適切なものは除外されたのだけれど、それは一般的なSNSでは誰もできないし、故に何らかの問題が生じる可能性は十分にあるので、その都度各自対応してください。

私自身は初動させるためにこれを書いたのだけれど、責任者のごとき重要な役割を果たすつもりはいつものように毛頭ないので、皆さんで適正化を試みたりして楽しく進化させていってください。

 

References


Morris RR, Schueller SM, Picard RW
Efficacy of a Web-Based, Crowdsourced Peer-To-Peer Cognitive Reappraisal Platform for Depression: Randomized Controlled Trial
J Med Internet Res 2015;17(3):e72
URL: http://www.jmir.org/2015/3/e72
DOI: 10.2196/jmir.4167

竹田伸也. (2012). マイナス思考と上手につきあう認知療法トレーニング・ブック: 心の柔軟体操でつらい気持ちと折り合う力をつける. 遠見書房.

投稿者: administrator

Mental health blogger, researcher, social anxiety/selective mutism survivor.