自分の感情を押し殺す癖と向き合う

この一週間、心身ともに不調である。休暇後、遅れた仕事を取り戻すために全力でやってみたが、ストレスが溜まる一方で、ろくに休まないから疲労も溜まり、体も壊している。

一日24時間では足りない。一日のうちにやろうと思っていたことの半分もできていない。寝てる場合じゃない、と思い寝ずにやろうとした。すると次に日の作業効率が落ちてくる。やればやるほどできなくなってくる。焦る。もうダメだ。

「大丈夫ですか。無理せずに休んだらどうですか」と言ってくれた人がいた。そう言われることは頻繁にある。だが私はいつものように咄嗟に言った。

「いや、平気ですよ。いつものことです」そして、面白おかしいことをひとつふたつ言って、かわしたのだった。

ストレスが溜まっていることを悟られたくないし、私は大丈夫だと思う。これら一連の会話と思考は、なにひとつ個別に検討されずに自動的に行われた。

けど、今回すぐに、ちょっと待てよ、と思う自分に気付いた。お待ちなさい、その思考回路。このまま突き進んだら、以前と同じように自分を追い込むんじゃないの?

そうだ。こんなときは、いちど立ち止まり、自問を投げかければ自己診断できるのだ:

 

私と同じ状況の人が目の前にいます。何と声をかけますか?

「無理しないで、回復するまでゆっくり休むといいよ。いいんだよ。誰だって進んでは休んでの繰り返しなのだから。焦ることないんだよ。元気になれば、きっと成し遂げられるよ。私はあなたならやれると信じている。自分を信じて自分を大切にすることが、長期的に見れば達成への近道なんだよ」

そう言って、どうか全てがうまくいきますようにと願いをこめてハグする。

 

そうか。 … 全然違うね。自分に言うセリフと。

では、結果は?

 

不合格

 

落ちちゃった。どうなってるの、全然変わってないの? と思った途端、不覚にも泣いてしまった。

けど、そのあと、不思議と落ち着いてきた。いや、そんなに悪くない、と思った。

今回は、ちょっと待てって思ったじゃないか。いちど立ち止まって考えてみた。悲鳴が聞こえてくるのを無視しなかった。悪くない。全然悪くない。ずいぶんと変わった。

もうひとつ。泣いてしまったって書けたじゃないか。書いて、それについてまっすぐ向き合い自分の感情として受け止めた。そういうことは去年書いたブログ記事にはなかった。実は去年だって書きながら泣いていたりした。それなのに自分の感情に向き合うのがひどく怖くて、平気平気と自分に言い聞かせながら、決して誰にも泣いていることなど悟られないように一様に明るい文調で書いたのだった。

今回のことだって、同じ状況の人に対して、確信を持って言える言葉があると分かったのだから、悪くない。

自動思考に従ってしまっただけだ。この状況下でどうしたらいいのかは考えれば分かるのだ。だから、実践できる可能性はある。実践できる能力はあるということだ。歪みを直せばいい。だから、やってみる。

 

以下は今回の心の状態について、認知行動療法で行われる認知的歪みの記述を試みたものであり、状況からの出口を探ることを目的として書かれています。従って、極めて個人的なものです。

読む人を想定していませんので、読みやすい構成なんて全く考えていませんし、状況等について誰が読んでも分かるようには書かれてはいません。

多くの人にとっておそらくものすごくつまらないものをネット上に置いてしまうということになりますが、自分のために書いたものであるし、そもそもブログ自体が自分の治療のために書かれているものであるし、もしかしたら似たような思考の癖のある人にとっては何らかの意味があるかもしれないし、認知行動療法に興味がある人にとっては認知の記述例にもなるかもしれないので、記録を残しておきます。実際少し検索してみたら、不安障害の人が自分の感情に気付かない傾向があるという記事も見つかり、こういった傾向は多少のコンテクストの違いがあるにせよ、多くの人にあるのかもしれません。

いずれにせよ、人の役に立つにはどうするかという考えを第一に置いてしまう自動思考があり、それが今回の不調とも関わりがあることを自覚しているので、ひとつこの考えを横に置いておくこととします。


今回は下の思考表を利用します。これはSADに特化せずストレス・鬱・摂食障害等からくる不安一般に使える記録票。以前、『運転するのが怖い』の記事で使ったのと同様のものです。

 

状況は?

感情の評定・身体症状

咄嗟に浮かんだ考え(自動思考)

自動思考の根拠

自動思考内容に対する反証

 

状況は?

  • 仕事が計画したペースで進行していない。すでに7月も終わりそう。挽回するためにひたすら努力しているがストレスと疲労が溜まるばかりで、むしろ効率が落ちている。
  • 休んだらと言ってくれた同僚に対して私は平気だと応えてしまう。

 

感情の評定・身体症状

  • ストレス度 100%
  • 寝不足
  • 眠れない
  • 強い疲労感と倦怠感
  • 胃痛
  • 食欲なし 食べられない
  • 頭痛
  • 音が普通に聞こえない。小さな音でも頭に響いてくる。

 

自動思考

  • 寝たり食べたりしてる場合じゃない。時間足りないんだから、体きついなあと思ったところで、もう一時間やってみよう。

自動思考内容へ根拠を与える

  • ランチなんかはたくさん食べちゃうと眠くなって午後の仕事効率が落ちるからね。

自動思考内容に対する反証

  • 生き物なんだから基本的な体調が整わなきゃ機能しないよね。食べちゃうと眠くなって仕事にならないって、食べなきゃ死んじゃってひとつも仕事できないよ。

行動計画

  • 体調が回復するまで仕事を休む。
  • やりたいと思ってもやらない。良好な状態でないのに、やりたいことをやる資格はない。飛行機だって、きちんと点検して、すべてが安全に機能することが確認できなきゃ飛ばないでしょ。体調を整えなきゃまた自爆する。体調を整えなきゃいい仕事はできない。

 

自動思考

  • 食べられない。食べたくない。

自動思考内容へ根拠を与える

  • 気持ち悪い。食べるなんて拷問だ。

自動思考内容に対する反証

  • 栄養摂らなきゃ。

行動計画

  • まずは水分から。大丈夫。水分取っていれば人は簡単には死なない。焦らない。回復してきたら徐々に消化のよいものを摂ればいい。

 

自動思考

  • 眠れない。眠っている場合ではない。

自動思考内容へ根拠を与える

  • あれもこれもやらなきゃと考えてしまって眠れない。

自動思考内容に対する反証

  • 眠らなきゃ回復しないし何もできない。

行動計画

  • 眠る前に各種リラックス法をやってみよう。
  • 考えることにストップをかけよう。
  • 自動思考的に「あれもやらなきゃ」と始まったら、「聞かないよ」と言おう。そうすれば自動思考から意識を離していける。

 

自動思考

  • 仕事が予定通りに進んでいない。もうダメだ。焦る。

自動思考内容へ根拠を与える

  • 数本の論文としてさっさと書き上げないと研究自体が古くなってしまう。他で同じようなものを出されてしまったらそれで最後だ。

自動思考内容に対する反証

  • 量より質。急ぐより、じっくり取り組もう。じっくり磨き上げよう。
  • 研究が古くなってしまう前に出す方法はいくらでもある。
  • 査読者がゆっくりしてたりで、何カ月もかかることは普通なんだし、それを考えると急いでやるなんてばかばかしい。

行動計画

  • 10月までは焦らずひとりでじっくり取り組もう。
  • その時点であと三カ月以上かかりそうなら、他の研究者に仕事を分け共同研究として出す。ほとんど出来上がっている論文に名を連ねていいのだから、みんな大喜びだよ。
  • ソロにこだわるのではなく、共同でやっていくことも学ぼう。対人的なところが面倒だから、ひとりでできる題材を選んでいた。複数の人達で協力すれば題材の幅も広がるし、私もひとりで抱え込むことはなくなる。

 

自動思考

  • 質は落とせない。
  • エラーはあってはならない。
  • 完成度は完璧を越えるものを目指す。

自動思考内容へ根拠を与える

  • 質を落としていいとしたら、底なしに落ちていく。
  • エラーOKだったら、reliability が崩れ、同時に validity も崩れる。
  • 完璧を目指して結果としての完成度は8割程度。8割程度を目指して完成度は6割程度。そういうものだ。だから、完璧を越えるところに目標を設定して、初めて完璧に近い完成度で仕上げることができる。
  • メンタル面の治療のためには完璧主義は捨てるべきだという鉄則があるが、それは治療の一過程としてあるだけで、仕事の質を上げていくことを否定するものではないはずだ。なにもかもいいかげんにしていいわけがない。完璧な仕事をする=病気になる=悪いこと の図式は成立しない。
  • メンタル系の治療は患者の症状を和らげることを最終目的としていて、症状が和らいだら、そこからどうするのかということを問わない。能力を発揮するにはどうするのかというところまで言及しない。
  • 完璧を越える素晴らしい仕事をしながらも精神を良好な状態に保ち続ける一流の人達は確かにいる。

自動思考内容に対する反証

  • なし
  • 質を落とさず成果を上げていくことを可能にして、かつ精神のバランスを保つ方法があるはずだ。それがイノベーションだ。

行動計画

  • 完璧にこなすという目標と自分との間の関係を改めていく。質を上げることを念頭に置きつつ、そのことがプレッシャーにはならない関係。目標がうまく自分を導いていってくれるようにするためには、まず自分が変わる。自分が変われば相手も変わるのと同じように。謙虚に真摯に向き合っていこう。平気だ。一見うまくいっていないようでも、それは目標を達成するためのひとつの大切な足場なのだから。
  • 質を保ちつつ成し遂げるには仕事の分散は不可欠だ。任せられることは他に任せてしまう。ファンディング等の状況によっては他に回せないこともあるけれど、利用可能なリソースは使いこなしていこう。
  • マネージメント能力を高めよう。研究デザインを決定する際には、人的リソース配分も考慮に入れよう。無理なく分散させることで質を高めつつ大きな仕事も成し遂げられる。みんなで磨き上げていけばきっと楽しい。

 

自動思考

  • 周りの人に私のことを心配させてはならない。
  • 誰かの意識に私のことが一時とて占めるなんていうのは大変おこがましいことである。
  • 私のことを心配をさせてしまうなんて申し訳ない。もっと楽しいことを考えてほしい。
  • 誰かが私のことを心配してしまったら、急いでその人の意識から私のことを払拭させるよう努めなければならない。
  • そのためには冗談などを言い笑いを振りまくことにより払拭させてしまおう。
  • 人に心配させたということ。それは紛れなく私の言動・行動・様子に心配させるようなものがあったということだ。反省しよう。
  • 今後はそのような心配をかけぬよう笑顔を絶やさず平静を保ち振る舞わなければならない。

自動思考内容へ根拠を与える

  • 自分が存在しているっていうこと自体許されないことのような気がしちゃうから、人に心配させるのも具合が悪いの。しょーがないじゃん。
  • 「平気です。大丈夫です」って考える前に口から出てきちゃうの。冗談も出てきちゃうの。しょーがないじゃん。

自動思考内容に対する反証

  • 存在してもいいし、心配をかけてもいい。
  • 誰かが心配してくれたのに、否定するなんて、ずいぶん失礼だよね。
  • 実際心身ともに参っていたのだから、認めよう。

行動計画

  • 自分の内側の悲鳴を聞こう。
  • それより先に人が私の内側の悲鳴を聞いたようなら、聞こう。
  • 気付いてくれたことに対して、感謝しよう。
  • 「大丈夫ですか」と言われて、自動的に「平気だ」と言ってしまうようなら、制御をインプットしよう。「大丈夫ですか」って言われたら、感度の高いセンサーでもって感知させて思考を止める。それからどうしようか。どうしたらいいか咄嗟には分からないから、シナリオを書いておこう。

シナリオ

「大丈夫ですか。無理せずに休んだらどうですか」

そしたら、まず止まる。やっていたことをやめる。思考をやめる。そこからは、Thank you で始める。

「気を遣ってくださり、ありがとうございます。実は今回結構きついです」

「具合が悪いなら休みなさい」

「そうですよね。なんか、言われるまで気付きませんでした」そう言って、

「気づいてくれてありがとう」

と言って、ハグしてしまおう。だって、うれしい。心配してくれてありがとう。

これでいい。次に心配されるのが楽しみになってきた。

投稿者: administrator

Mental health blogger, researcher, social anxiety/selective mutism survivor.