不安場面に身を置けば必ず不安発作が起こった

私は国際学会で発表がしたい。

国際学会で発表するには、研究発表の要旨を学会コミッティーに送ることから始まる。要旨を書いて送るぶんには、私は緊張しない。

数週間後、コミッティーから結果メールが届く。「コングラチュレーションズ! あなたの研究発表計画が採用されました」

さあ、ここからである。私の不安が始まるのは。踊るような文面が続く。コミッティー側の書く文章のテンションが上がるほど私の不安は増大していく。

体が震え始める。気持が悪くなる。

毎日恐怖に襲われる。日常生活を送ることができなくなってくる。

耐えられなくなり、私はコミッティーにメールを送る。「残念ながら、都合により学会へ参加できなくなりました...」

予期不安という心の病気の都合。こういったことを何度か繰り返した。私はもうブラックリストに載ってるかもしれない。

予期不安 → 回避 → 自己嫌悪 → 不安障害悪化 の悪循環を長年繰り返してきた。

ともかくこれはもう尋常でない。

私は医師に診てもらうことにした。2011年10月のことである。

私の住んでいるオーストラリアではまずは専門医ではなく一般医 (General Practitioner: GP)にかかる。

そこで近所の一般医でこれまでの状況を相談した。頓服用のベータブロッカーや抗不安剤は持っているが、学会のスケジュールがたってからすぐ不安が始まるので、毎日飲めるような薬がいいな、と言ったのである。

すると医師は抗うつ剤 paroxetine ([selective serotonin-reuptake inhibitors: SSRIs]の一種) を処方してくれた。

それとクリニカルサイコロジストへの紹介状を書いてくれた。認知行動療法を同時に行うほうがよいと言う。薬で一時的に症状はおさまるが、それだけでは治らないし、認知行動療法も受けたほうが再発しなくなる、と。

サイコロジストか。忙しいしなあ。おしゃべりしたってねえ。とそのときは思った。私は認知行動療法というものがどういうものかよくわかっていなかったのである。

「考え方を変えていくため」と医師は言ったが、その時点での私の社会不安障害に対する考え方自体、「考え方」とは関係ないものだった。

発表を聞きに来た人たちが私を馬鹿にしようとしているなんて考えは私は持っていない。

ただ、発表を始めると発作は必ず起こるのだ。

パニックを起こす状況に身を置くと、アレルギー発作のごとく必然的にパニックが引き起こされる。

なぜそう思っていたのかというと、それはこれまでの経験からだ。

大勢の人前で話をする場面になると、必ず発作を起こす。体が震えて、心臓は爆発するかのように激しく暴れ、頭の中は真っ白になり、体が言うことを聞かなくなる。声が出なくなる。ようやく絞り出した声は激しく震え、意味を成さない。

このまま死んでしまうと思う。

発作の前兆が起こりつつあれば、そのままなす術もなくなり、ただこのパニックに身をゆだねなくてはならなくなってしまう。それは必然的に起こる。

花粉が飛び始めると、必然的に花粉症の人はくしゃみをせざるを得ないように。
しかし医師は言った。「3か月もすればずっとよくなっているはずですよ。だから、絶対に次回の学会発表をキャンセルしないで」

本当かなあ。

投稿者: administrator

Mental health blogger, researcher, social anxiety/selective mutism survivor.