あと三カ月で大きな学会で発表する。
社会不安障害を抑えるために、異常に緊張するのを抑えるために、できるだけのことをしよう。
医師とも約束したし。
そうして私は紹介状を持ってクリニカルサイコロジストのジャネットさんと会うことになった。
ジャネットさんは笑顔の優しそうな話しやすい人だった。
なにしろ話をするのがうまい。そして話をさせるのがうまい。さすがクリニカルサイコロジストだ。このコミュニケーション能力は並々のものではない。
最初はこれまでの病歴(特になし)や症状について詳しく話す。既に医師が社会不安障害と診断しているが、ここではじっくりと聞き込み社会不安障害ではない別の病気である可能性も考えてくれる。
そしてやはり社会不安障害だとジャネットさんも同意すると、社会不安体質と遺伝のこと、これまでの発作等について記録していく。
「壇上に上がって、話し始めて、パニックに陥るまでのあなたの気持ちを話してください」
「えーと、気持ちというのはないです。と言うのは、一瞬で起こるんです。壇上に上がって話し始めるやいなや、どかんとパニックに。気持ちとか、なにかを考えたり思ったりすることはないです。気持ちを介さずに突然起こるんです」
答えると、ジャネットさんは首をかしげる。
「そうでしょうか、発表を聞きに来た人たちは、そんなパニックに陥ってしまったあなたのことをどう思うと思いますか」
「びっくりするんじゃないでしょうか。なにせ、発表者が壇上で突然死にそうになっているんですから。大丈夫ですかって寄ってくる人もいますよ」
「はっはっは。そうですか。その後恥ずかしかしいと思いますか」
「ええ、恥ずかしいですねえ」
「これは実はですね、社会不安障害というのは、比較的簡単にコントロールできるようになるんですよ」
ジャネットさんはそう言って自信たっぷりに微笑んだ。