安全保障行動の放棄

社会不安障害の人は不安場面を安全に遂行するために本人が儀式化したかのような特定の行動を取ることがある。自分の苦手な場面、震える場面で、こんなことをやっていないだろうか。

  • 手の震えが見ている人に気づかれないようもう一方の手で押さえておく
  • 会話に参加するのを避けるために携帯を見続ける
  • 複数の人々との会話に参加している際、その場面が早く終わるよう無口でいる
  • プレゼンが早く終わるよう早口で喋る
  • 会話の際、失言を避けるために無口でいる
  • 知らない人と喋る際、自分が注目を浴びるのを避けられるよう相手に質問ばかりする
  • 変人であることがばれないよう笑顔を浮かべる
  • 変なセリフを言わずにまともな面白いことが言えるよう前もって言うセリフを考えておく
  • 人が恐ろしいので人の顔や目を見ないで会話をする
  • 視線を合わせるのが恐ろしいのでサングラスをかける
  • 人の視線を浴びないよう教室の後ろの隅に着席する
  • 目立たないよう地味な服を着る
  • 赤面しても気づかれぬようマスクをする
  • 会社のトイレ内に誰もいないことを確認してから入る
  • 客が家に来ると社交を避けるためにキッチンに籠り洗い物ばかりしている
  • 持っていれば不安が生じないと言われる秘密のお守りを握っている
  • 不安場面そのものを回避する

危険な場面を安全に通過するには、目立たないようにしたり足早に歩く等の安全を保障する行動をとることは理解できる。そうすることで「真夜中の危険な地域でのひとり歩きは危険ですよ」と脳にシグナルが送られ、人は危険を効果的に回避する習慣をつけられる。

が、危険ではない場面において安全を保障する行動(セーフティネットを張り巡らせてから不安場面に挑む)をとっていると、危険でもないのに脳に危険シグナルが送られ、安全な場面に対して生じる非合理的な不安や恐怖が強化されてしまう。そこで、不安場面に挑む際(曝露・エクスポージャー)はこのような安全に場面を遂行するための行動を放棄することが勧められている。これらは safety seeking behaviors/safety behaviors 安全保障行動(安全確保行動)と呼ばれる。

不安障害の発症にいたるほど不安の強化された私のような人の場合、本人はそうと意識せずに安全保障行動を常にやっていたりする。すっかり習慣化されているため本人は気づかずにやり続ける。そんなしつこい安全保障行動もプロのセラピストが見ればすぐに指摘・行動を変容に導いてくれたりするので心強い。

全ての安全保障行動を初回の曝露から放棄することが推奨されてはいるが、実際のところ、私にとって「全て」を一度に放棄するのは困難であり現実的ではなかった(たくさんある)。そういうわけで、長い時をかけてひとつずつ安全保障行動の放棄訓練を日常生活でも継続している。

 

相手の目を見ないことで安全でいようとする行動の放棄

普通を装うことで安全でいようとする行動の放棄

言うセリフを暗唱することで安全でいようとする行動の放棄