エクスポージャー前の準備は改めてすごかったと思う

数年前に認知行動療法(CBT)を受けたとき、私は不安障害のCBTにおけるクライマックスと言えるエクスポージャーに数回の準備的セッション後に挑み、それがやたらと効果を発揮し、その後不安発作や不安場面の回避もなく比較的普通に生きている。

最近、ブログに記録していた初期の治療の様子を読み返してみた。初期に受けた数回の準備的セッション。これらを改めて振り返ってみた。的確かつ着実にエクスポージャーに至るための認知の準備が成されていると思った。そこにはエクスポージャーの成功に向けたステップがしっかりと仕込まれている。

初期の記録を書いていたときは、テキトーに書きっぱなしの状態であり、ばらばらでまとまりがなく、このままではあまりにも不親切な状態なので、今回は、久々に基本に戻り、エクスポージャーに至る準備の記録をまとめようと思った。

治療前の私の認知は単純であった。それは、

  1. 不安場面に身を置き
  2. 不安が発生し
  3. 不安はうなぎ上りに高まり
  4. 不安発作を起こし
  5. 大失敗に終わる

不安度が上がっていく。ただただ上がっていく。そんな治療前の私が思う不安場面における不安度の経過をイメージしてグラフ化するとこんなふうになる。

image

 

時間の経過とともに不安は上昇を続ける。そこには天井がない。治療前の私はそんな認知だった。

認知などと言うと生易しい感じがあるが、これは強く根付いた信念と化していた。「不安場面に身を置けば必ず不安発作が起こる」そう強く信じて疑わなかった。

すると、どうなるか。

不安場面に身を置いた私は不安が発生するのを感知する。その途端、「うわあっ 不安が発生した! このまま、どんどん不安が高まるんだ。発作を起こして倒れるんだ。どうしよう!」

私の不安は信念に導かれるばかりで、疑いを挟むことも、不安を緩める余裕もない。このように信念に基づいたシュミレーションが私の思考に継続して起こる限り、不安は維持され、また、現実化する。

そんな私の絶望的に不安まみれとなっている認知に、異なるシュミレーションが導入される。見事にターゲットを定めた塩梅で準備された。

その準備は主に3つの方法により形成されていた。

これら3つは別々のことをやっているようで、ひとつのゴールへと向かっていた。私の認知にひとつの新たなストーリーを植付け、エクスポージャーを成功に導いていった。

まずリラックス法。私はセラピーの初回で

「呼吸を整えるだけでかなりの不安をコントロールできる」

と教わった。呼吸が速まると、脳に警報が送られ、非常事態であると認識してしまう。すると、脳は逃げる準備を整える。ドキドキしてきて、いつでも全速力で逃げる準備をする。これがパニック発作に繋がる。

だから、

fightorflight

 

と習った。これは漸進的弛緩法でも同様のことだ。

不安を感知しても、心配いらない。うなぎ上りに不安が高まる前に、不安を下げる方法があるのだ。

 

次に、不安は必ず下がるものだと教わった。

最悪の場合、パニック状態に陥ったとしても、数分で落ち着き始める。不安には天井があり、ピークを過ぎれば下がっていくものなのだ。

これは、『誰も教えてくれなかった!高所恐怖症のナゾ』という番組で語られていたことでもある。

高所恐怖症の3人に、つり橋で「怖い」と思った瞬間に、これからその恐怖心はどうなると思うか尋ねたところ、「恐怖が高まって最後はどうにかなってしまう」と答えました。ありもしない恐怖をどんどん予想し、事実とはかけ離れた結末を思い描いてしまったため、その場に立っていられなくなったのです。

実は、恐怖はいつまでも続くのではなく、ある一定の時間を過ぎると下がり始めます。その場に居続ければ、いずれその状況でも大丈夫だという体験ができるのです。これを番組では「OK体験」と名づけました。

専門家によると、もともと「恐怖」は緊急事態に対する反応なので、エネルギーがそう長くは続かないといいます。本当に危険な場合であれば、いつまでも怖がっていられますが、そうでなければ、遅くとも15分くらいで恐怖の反応は下がり始めるといいます。

そうか。緊張事態は長くは続かないものなのか。

不安がピークに達するまで高まったとしても、慌てることはない。不安が高まり下がっていく様子を観察していけばいいのだ。

よかった。不安はうなぎ上りに高まるものではなく、下がるようになっているのだ。

 

さらに私はセラピーで不安レベルがピークより少しだけ下がった状態が適切な不安レベルであることを教わった。

ピークの不安からほんの少しだけ不安を下げられれば、最もいい仕事ができるのだ。

 

Y-D law

 

なんだ、わずかに不安を抑えることができれば、それでちょうどよいのか。

 

パフォーマンスレベル不安レベルと

 

これならできる。不安を感知したら、習ったリラックス法を実践する。僅かにでも不安を低減させることができれば、最も良い仕事ができるのだ。

 

さらにマインドフルネス瞑想。

このマインドフルネス瞑想は社会不安障害のためのスクリプトで構成されていた。不安場面において不安が生じても抗わず、呼吸に意識を戻すイメージをシュミレーションできるものだった。これはセラピーセッションのたびにセラピストのジャネットさんのガイド付きでやってもらっていた。不安場面に挑む際のちょっとした時間にやる習慣をつけるといいと言われた。

ところで私はこの心地よいイメージトレーニングがマインドフルネス瞑想であるとは知らなかった。のちに、ネット上で見つけた『社会不安障害のためのマインドフルネススクリプト』とほぼ同じものだったので、おっ、これは実はマインドフルネスだったのか!と知ったのである。

セラピーセッション時は、「不安場面に挑む際に不安な気持ちを落ち着かせ、適切な心構えで挑めるようにイメージを根付かせいく」ためのものと聞いた。まあ、その通りなので、実施前にきちんと伝えられてはいるのだ。

確かに私が疑い深い人間であることを思うと、そのことにジャネットさんが気づいたであろうことを思うと、これは適切な伝え方であった。マインドフルネスとか瞑想とかいう言葉を聞いたら、「何それ、胡散臭い。非科学的だな。もう帰る」とか言って、セラピーをやめてしまったかもしれない。

一部抜粋するとこんなスクリプトだった。

ネガティブな感情が生じたら、そのことに気づき、呼吸に意識を向けましょう。

社会的パフォーマンスの場面での不安に心が彷徨うのは自然なことです。ただ、自分を責めないよう気をつけてください。

自分の心の動きに気づき、それでいて、心の動きに従わないよう気をつけてください。

では意図的に、あなたの怖れる状況を想像してみてください。

その状況が醸し出す不快さを感知したら、そこにそのままいてください。不快な感じに抗うことなく、感情と同居してみてください。

力を抜き、感情が次第に溶けていくのに任せてください。感情に抵抗すれば不快感は残り、受け容れれば次第に消えていきます…

 

エクスポージャーをやる直前にも、このマインドフルネス瞑想をやった。今後プレゼンをする場合も、直前にやっておくといいと言われた。瞑想により気持ちを適切な状態に整え、不安が生じるとき不安に抗わずに緩めていくイメージを幾度も反復しておくことが、大切なのだった。不安は消そうとして慌てなければ、消えていく。

不安が生じても慌てなくていい。生じた不安感を受け容れ、力を抜いていけば、不安は弱まっていく。

 

さて、これらすべてのエクスポージャー準備は、ひとつの共通するイメージのシュミレーションとして集結されている。

  1. 不安場面に身を置き
  2. 不安が発生し
  3. 高まる不安に対して抗わず落ち着いて
  4. 呼吸に意識を向け、整えていき
  5. 不安が弱まり
  6. ちょうどいい匙加減の緊張を維持しつつ
  7. しっかりと仕事をこなす

 

それは治療前の

  1. 不安場面に身を置き
  2. 不安が発生し
  3. 不安はうなぎ上りに高まり
  4. 不安発作を起こし
  5. 大失敗に終わる

 

という思考の動きを書き換えている。

 

思考も行動のうちのひとつである、と行動療法系の文献で幾度か見かけたことがある。

エクスポージャー前に認知を整えていくことは、確かにエクスポージャーそのものと似ている。

不安場面に身を置き、不安が生じ、それでも不安に巻き込まれずに、落ち着いて呼吸を整えていき、最高の状態にもっていき任務を全うする。

そんなイメージのシュミレーションを幾度も異なる方法で実践しているのだから、不安場面に自らの意識を曝している。行動しているのと似ている。

不安はピークを越えれば必ず下がる。僅かに不安のピークから下がったあたりでちょうどよいパフォーマンスができる。裏付けられた確実な知識に基づいた新たな思考の動きが根付いていく。

認知の準備、認知への働きかけ、それらはむしろエクスポージャーというひとつのプロセスをひとつの側面として構成する要素であった。そんな印象がある。

あるいは、実際に現実で行われるエクスポージャーの成功に向けて着実に固められた段階であった。いずれにせよ、それら全ての準備がひとつのエクスポージャーを構成しているように思える。

乱暴に不安場面に慣れさすのでも、闇雲にエクスポージャーをやらせるのではなく、セラピストが的確にエクスポージャーへの準備を整えていくことで、エクスポージャーは効率よく実施され、多大な効果を及ぼす。自分の努力とか、勇気とか、そういうこととは別に、適切な準備を整えてもらったおかげで、効率よく回復できた。そんな認識が現在の私にはある。

 

References

Andrews, G., Creamer, M., Crino, R., Hunt, C., Lampe, L., & Page, A. (2002). The treatment of anxiety disorders: Clinician guides and patient manuals. Cambridge: Cambridge University Press.

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Kristeller, JL. Mindfulness Meditation. In P Lehrer, RL Woolfolk & WE Sime. (2007). Principles and Practice of Stress Management. 3rd Edition. New York: Guilford Press.

Tartakovsky, M. (2012). 3 Practices to Calm An Anxious Mind. Psych Central. http://psychcentral.com/blog/archives/2012/02/22/3-practices-to-calm-an-anxious-mind/

Yerkes, R. M., & Dodson, J. D. (1908). The relation of strength of stimulus to rapidity of habit-formation. Journal of Comparative Neurology and Psychology, 18(5), 459–482. http://doi.org/10.1002/cne.920180503

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投稿者: administrator

Mental health blogger, researcher, social anxiety/selective mutism survivor.