女性周期を利用してのエクスポージャー

「女性の不安障害治療は、女性ホルモンの分泌量の変化に応じてタイミングを計って実施することで効果が上がる」

それを実証しつつあるのがオーストラリアの心理学者 Bronwyn Graham さん。(参照サイト1、2)

Bronwynさんは、蜘蛛恐怖症をもつ女性を対象とした研究において、エストロゲンの成分のひとつエストラジオールの分泌量が多いときに、曝露療法(エクスポージャー・行動療法のひとつ)を実施すると効果がより長く持続することを示した。

曝露療法は社会不安障害の治療において重要なステップを占める。

認知療法から始めて、不安場面に挑んでみようと思えるほどまで認知の再構成が進んだら、次の段階として曝露療法に進み、徐々に不安場面に挑戦していくことで、過去の苦い体験の記憶から新たな成功体験としての記憶に書き換えていく。

次の不安場面に挑戦するときに、前回の曝露療法で新たに形成された成功体験の記憶に頼ることで、症状は徐々に消えていく。

成功体験が新たに形成されるか、記憶のアップデートがスムーズに進行するか、そこが治療の大きな鍵となる。

だから、曝露療法の順調な進行は、社会不安障害の治療を成功に導いていくためには大変重要となってくる。

女性のためのタイミング曝露療法がが広範囲の不安障害の曝露療法において同様の結果を示すなら、PTSDや社会不安障害の治療に応用できる可能性があると言う。

難しいことは何もない。単純にタイミングを合わせるだけのことだ。

女性の自然な周期を利用する可能性に着目したこの研究はエレガント且つ画期的であると称賛され、イギリスの団体 (MQ: Transforming Mental Health) より30万豪ドルの研究資金が提供された。

したがって、研究は現在進行中であり、女性の社会不安障害治療に対する効果のエビデンスが示されるとしたら、これからになる。

男性からしたら、そんなことってある? と思うかもしれない。女性からしたら ― 長年の間、浮かんだり沈んだりするこの周期と付き合ってきた経験から私は思うのだが ― これは近い将来エビデンスが確立するんじゃないかという気がしている。

Bronwynさん曰く、

「不安障害を患う女性は多いのに、治療法は男性視点で確立されてきた。患者に周期はなく、いつ治療を実施しても効果は変わらないということが前提とされて、そこに疑問を呈する人すらいなかった。結果として、男性を主体とした治療法に女性も従ってきた。そのため、女性の不安障害患者は曝露療法の成功率の低い時期に治療を実施されることもあっただろう。これからは、女性ホルモン周期のタイミングに合わせて曝露療法を実施することで、女性患者の不安障害治療の効果を高められようになるかもしれない」

そうだとしたら、女性の不安障害患者にとっては朗報だ。確かにこれは女性研究者でなければ出てこない視点かもしれない。

エストラジオール分泌量は排卵日前三日間ほど高まり、月経前から月経期間中にかけて最低レベルとなる。

estradiol cycle

画像ソース:http://en.wikipedia.org/wiki/Estradiol

すると、曝露療法を実施する日、または個人で不安場面に挑戦する日は、排卵日までの三日間にスケジュールを組むと効果が上がり、月経前から月経期間中は効果が下がるという可能性が出てくる。

これは私自身の経験則でしかないが、排卵日前は、やたらと強気でポジティブになり、何をやっても結構うまくいく。難しいと思えたことでも、この時期に集中してやれば難なくクリアできたりする。他方、月経前から月経期間中は、弱気でネガティブになり、何をやってみてもうまくいかない。と言うか、何もできない。

不安場面に挑むのが自然と強気になれる時期であれば、恐怖のレベルも無理なく下がるのではないかと思う。

何事もポジティブに捉えられるので、不安場面に挑んでいるときに多少震えようが気が遠くなろうが、ダメだと思わず自然とポジティブに捉えることができるかもしれない。

やったのだ、不安場面をこなしたのだ、これからもきっとやれるのだというポジティブ感は、過去の恐ろしい記憶から新たな成功体験記憶へのアップデートをスムーズに実現していくだろう。

思い出すのは曝露療法の第一回。

ものすごい恐怖心に襲われつつ挑んだのを憶えている。体中に緊迫が走り、意識が遠のいていき、精神がバラバラに崩壊していくあの圧倒的な感じにすべてを奪われそうでありながら、力を抜いていき、統制を失うか失わないかの、ぎりぎりのところでコントロールしていく。

ダメだ……と思い始めたらアウト。あの圧倒的な感じに奪われコントロールを失っていく。やれてる!というポジティブ感を持続できればうまくいく。

それは治療の全過程において、最もハードルの高い治療だった。

そんなハードルの高い治療を、心身ともに最も好調な日に行えば効果も上がるのは納得できる。

実際、大抵の女性は自分の周期を意識したスケジュールを日常的に組んでいる。重要な行事については、可能な限り月経前~月経期間中と重ならないようにスケジュールを組む。

難易度が高いと感じられるような仕事は排卵日前に集中して行い、後は無理をしない。月経前~月経期間中に休んでおかなければ、次のサイクルの排卵日前にパワーを発揮できない。私はそんなふうに女性周期と付き合っている。

月経前~月経期間中が苦しいために女性に周期があること自体がネガティブなものとして捉えられがちだけれども、周期があるおかげで、苦しんだ分一気に押し上げていく波に乗り、越えていくことができるというポジティブな側面は見過ごされがちだ。

この波をうまく利用するという視点を持ち、不安障害治療も含めて、日常面・勤労面にも幅広く応用させていけば、女性であるが故に様々な場面で容易にステップアップできるかもしれない。

現段階では研究結果が出ていないにしろ、最先端の社会不安障害治療研究のひとつであるし、タイミングを合わせるって、お金もかからないし、副作用もないし、失うものはないので、試してみる価値はあるように思う。

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投稿者: administrator

Mental health blogger, researcher, social anxiety/selective mutism survivor.